ビール、ソーセージ、サッカー、メルヘンな街並み……。観光ガイドで語られるドイツ像ではなく、実際に暮らしてみたらどんな景色が広がっているのだろう?
今回は、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都であり、ドイツ第6の都市であるシュツットガルトを拠点に1ヶ月滞在して感じた人々の生活や文化の違いについて振り返る。
暮らすように滞在してみて見えてきたのは、旅だけではわからない“ドイツのリアル”だった。
見出し
列車、扉、ベビーカー、音……すべてが“重厚”
フランクフルト中央駅に入ってくる列車フランクフルト空港から移動する道中で真っ先に感じたのは「重厚さ」。
列車は日本と比べて四角くゴツイ。ベビーカーの車輪も大きく、列車とホームの段差をものともせずに乗降し、エスカレーターにも斜めになりながら乗っている。
駅への到着を知らせるサックスの音や音響信号機の音も、ドイツ語の腹から声を出しているような、低く存在感のある音が多い。
シュツットガルトの大通り
雰囲気のある建物は扉も重く、キャリーケースを持ちながらだと少し大変だった。こうした“重さ”が街の歴史そのもののようで、暮らしをじんわりと形づくっているのを感じる。
淡い太陽光と短い日照時間がつくる“冬の空気”
8時過ぎの空。雲はまだ朝焼けの赤さが残っている11月のドイツの昼間は短い。ぼんやりと空が白み始めるのは7時過ぎ、完全に日が昇るのは8時を回ってからだ。
日が昇ると、建物に反射する朝日が黄色からまばゆい白にすぐ変わる日本と違い、朝焼けのような赤い柔らかな光が建物をしばらく包んでいる。日が昇りきっても太陽は目線を少し上げた位置で動き続けるので、日差しが目に刺さって眩しい。
昼下がりのような明るさが1日中続き、16時には薄暗くなり始め、17時には完全に暗くなる。そのため日中でも気温が上がらない。
昼近くになっても立ち込める霧霧がずっと濃く立ち込めている日もあり、霧のなかにぼんやりと街が浮かぶ。そんな景色を前にすると、まるで違う世界に来てしまったかのような気分になった。
冬のドイツで気づいた“日差し”のありがたさ
日差しを求めて移動する鶏とカモとヤギ
農家に遊びに行った際、同じ場所に鶏が集まる不思議な光景を見かける。「何でだろう?」と思っていたら「太陽を求めて移動しているんだよ」と農家の方が教えてくれた。
昼間は柵もない広々とした芝生を自由に歩き回る鶏たち。太陽を求めるあまり近所まで出張してしまい、近隣の方から連絡が来たこともあるという。
リンダウで見かけた日光浴用の椅子これは動物だけの行動に限らない。世界遺産のマウルブロン修道院、湖越しにスイス、オーストリアを望むリンダウ周辺では、人が背を預けてゆったりできる木の椅子が点在していて、日が差してくるとそこで寝転ぶ人の姿をよく見かけた。
人も動物も、限られた太陽を大切に味わっている様子が“冬のドイツらしさ”を象徴しているようだった。
動物へのまなざしと街のすぐそばにある自然
2026年の動物カレンダーと躍動感あふれるカエルのペーパーナプキンポストカードやカレンダーを見ると、動物をモチーフにしたものが自然と目に入ってくる。日本ではあまり見かけないデザインも多く、一つとして同じものがない。
シュツットガルトの公園では、毎朝芝生の上でご飯を食べるカモを見かけ、池には白鳥、地下鉄の構内には鳩がいる。大学都市と呼ばれるチュービンゲンでは、ネッカー川沿いのプラタナス並木を歩いていると、木々の合間を飛び回るリスを見ることができた。
電車やお店にも飼い主とともに大型犬が入ってきて、座席の下で大人しく座っている。こうした光景からも、動物と人との距離の近さを感じた。
ネッカー川沿いのチュービンゲンの家とプラタナス並木マウンテンバイクに乗る人ともよくすれ違う。郊外には散策路が整備され、案内板を目にすることも多かった。バイク専門店も多く、アウトドアアクティビティとして暮らしのなかに自然と溶け込んでいるのが伝わってくる。
電車にはマウンテンバイクを持った人たちが当たり前のように乗り込み、車内には自転車専用スペースが確保され、駅のホームには奥行きのあるエレベーターが多く設置されていた。
電車内のマウンテンバイク固定場所。座席下からバイクを止めるベルトが出せる
パンと薬と紙文化
フランクフルト中央駅のホームとパン屋街を歩いていると、パン屋と薬屋が日本のコンビニのようにあちこちにある。駅のホームでもパンの香ばしい匂いが漂い、売店には紙の雑誌や本が並んでいたのが印象深かった。本屋も多く、本好き、紙好きとしては、思わず頬が緩む光景だ。文字が読めないのが、本当に惜しい。
街の風景と日々の暮らし
シュツットガルトにあるヨハネス教会シュツットガルト中央駅から出て歩きはじめると、東京の銀座を思わせる街並みに街路樹が連なる。
他のドイツ南部の街を歩いていても、セイヨウトチノキ、ヨーロッパナラ、セイヨウイボタノキなどの落葉樹が多く、地面には落ち葉が積もり、枝だけを残した木々の合間から淡い太陽の光がのぞく。
シュツットガルトの宮殿広場(シュロスプラッツ)横の並木道電車の窓から見える風景も、葉を落とした森や広々と続く草原、急斜面に等間隔に木が植えられたブドウ畑が続く。どんな町にも中心には必ず教会があり、時刻を告げる鐘の音が朝からいつも響いている。
木組みの古い建物には家が建てられた年代が刻まれ、1400年代に建てられたものまであって驚きだ。
エスリンゲンの急斜面に広がるブドウ畑
窓に薄いレースカーテンが取り付けられた室内は、常に暖かく快適だ。長野の寒い家とは大違い。朝、布団から出る辛さがないのは羨ましい。
シュツットガルトのような都市部でも、教会前の広場では毎週火曜・木曜・土曜の朝には、市が開かれる。ほとんどの店が閉まってしまう日曜日の前は、特に出店数も増え買い物客でにぎわう。
朝市に並ぶ野菜。アーティーチョークを食べてみたい日曜日になると街は静まり返り、外を歩く人の姿も一気に減る。音の少なさが、1週間の終わりを物語っている。12時になると盛大に鳴り響く教会の鐘の音だけが響き渡る、不思議な光景だった。
零下の寒さのなか、駅のホームにある木の台で、モコモコに上着を着こみ、毛糸の帽子をかぶった人たちが立ち食いをしていたのには驚かされた。ドイツに住む人から見ても「外食は高い」らしいが、寒さに耐えながら食べるのは、しんどくないのだろうか。
タバコの匂いもよくしていて、喫煙者にとっては過ごしやすい環境なのかもしれない。電車内の各席や駅のホームにゴミ箱が設置されているのも親切だなと感じた。
交通システムの似ているところ、違うところ
地下から地上に上がってくる電車
ドイツの交通システムは日本と似ている。DB Navigatorという鉄道アプリは、日本の乗換案内アプリと操作感が近く、字が読めなくても直感的に使えて便利だ。Googleマップの検索も正確で、どのバスに乗ればいいのかは調べるとすぐわかった。
しかし、鉄道の遅延や運休は深刻だ。話には聞いていたが、身をもって体感することになった。急に冷え込んだその日の気温は、昼間でもマイナス1℃。屋根だけの外ホームで待つなか、到着予定時刻より20分過ぎてから、運休が決まる。
仕方がないので次の電車を待つこと1時間、こちらも運休になる……。さすがに泣きそうだった。
列車の時刻表。青地に白文字は正常に運行してるが、白地に青文字は遅延か変更、運休になった路線バスに乗ってもその場で運賃を支払うことはなく、あらかじめチケットを持っていることが前提になっている。電車に乗っていると、ときどきチェック係の人が来るので、その際にチケットを見せるという方式だった。